主人公がいい。

人間は会話で出来ている。

オール明けの早朝、寝ぼけた脳みそが一瞬潤った。

 

 

「バカは強いと思うけど。」

 不安にも目を泳がせながら、しかしはっきりと発された言葉だった。

 

終電を逃し、朝までお酒を飲めるところを探していた。どうせならダーツをやろうと、ダーツBARに行き、ひと通りゲームをし終わり休憩していたところだった。

 

「利口な人は、経験から結末をある程度予測しちゃって行動に躊躇がでて、リスクがとれなくなるから、結果的に何も得られなくなるよね。」

注文していたお酒が席に届き、下部に溜まった色素をかき混ぜる。

 

「逆にバカだと過ちを臆さないから、高いリスクがとれるよね。後のこととか考えないから。でも、そのアクティブさは最大の強みだと思うけど。」

どこかの書物に書いてあるような内容を借りて自分の正当性を主張する。

 

 

 

「いや、それはどっちもバカだよ。」

店内にはジャズが流れ、上品な雰囲気が醸しだされていた。お客は自分たち以外は3人の女性だけだった。灰皿にタバコを親指で弾き落とし、柔らかく一蹴する。

 

「どっちもバカなの?」

「どっちもばかでしょ」

「なら利口ってどういうこと?」

前のめりになって、口から手を出して答えを求める。心なしか店内の音楽もその時だけは止まっていた。

 

「利口な人は、自分の力量をわかった上でその中でどうするか考えられる人だよ。無駄なリスクなんて取らないし、同じ過ちも犯さないよ。」

口からタバコの煙をぷはあと吐き出しながら、お前も吸えよと箱から一本だけ飛び出した状態でタバコを差し出してくれた。

 

オール明けの早朝、寝ぼけた脳みそが一瞬潤った。