主人公がいい。

人間は会話で出来ている。

そんなシートに潔癖症の人なんかは座れるはずはなかった。

 

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「誰かに認められなきゃ成せないんだよ」

 

 

少年が電車の中ではしゃいでいる。まるで我が家のリビングのようにはしゃぐ振る舞いはとても自然体である。

 

 

「結局、どれだけ自分だけがいいと思ってやっていることでも、他の誰かにとっても良いとか素敵って思われないと意味はないんだと、思うわけだよ」

 

 

少年たちは釣り革に手が届くかを競い合っていた。身長的に届く距離ではない。そこで彼らは彼らなりに考えた結果、ジャンプをして飛び跳ねていた。凄い勢いで飛び跳ね始める。

 

 

「んなことわかってるけど、自分がやってて楽しけりゃいいんじゃねぇの?」

 

 

混雑した車内でジャンプをして釣り革に手を届かせようとしているその様子は、他の乗客にとって迷惑な行為なはずである。目の前に座っているスキーウェア仕立ての服を着た30代の男がしかめっ面をしているのが伺える。その眼力は、無邪気な子どもに対して向ける目では相当なかった。

 

 

「それはただの趣味でしかないよね。趣味があるに越したことはないけど、それは時間の浪費だよ」

 

 

4人の少年のうち2名は渋谷で降りて、残り2名は車内に残った。味付きのガムを一度に4粒くらい食べて車内に甘ったるい匂いを充満させている。ぶどうやモモやいちごやパイナップルの複雑な臭いがミックスされていく。

 

 

「自分でやっていて楽しいことが決して他の人も楽しいってことを思わない方がいいよ。少なくとも僕は君の趣味に共感をしたことはないからね。けど、それでも続けていくのは大事なことではあると思うよ。まぁ、自分が楽しいんだから習慣としてやってるだけなんだろうけどね」

 

 

スキーウェアの男も渋谷で少年たちと一緒に降りていった。東急線は渋谷までの混雑感は不快を極めるけど、渋谷を通過すればそこは乗車率60%といった程度の空間になる。座ろうと思えば座席は用意されている状態である。

 

 

「君の自然体が周囲に認められることにになれば、最高なことだよね。そのために奮い立たせるんだよ。無にならないように、いきり立たせる必要はあるよね」

 

 

けれど、電車の座席はいろんな人が座ってきている。綺麗な女性が座っていたシートがあれば、スポーツ後の汗が染みたままのズボンで座っている人もいたはずだ。そんなシートに潔癖症の人なんかは座れなかった。