主人公がいい。

人間は会話で出来ている。

フヤケた肌を労りながら飲むコーヒー牛乳は日常の疲れを忘れさせてくれる至高の飲み物だった。

 

 

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「こう思うと文章書くことって面白いことだと思わない?」

 

 

休日の土曜日の14時頃、スマホが鳴った。友人からのラインメッセージである。内容は『今日、遊びませんか?』というもの。彼は友人歴4年目にも関わらず、メールでは敬語を使ってくる不思議な人である。

 

 

「お前はいつも主語がないんだよな」

 

 

前々から誘いの連絡はあったけれど、なかなか予定が合わず卒業してから会う機会がメッキリ減ってしまっていた。今日は都合が合うということで急遽遊ぶことに。『じゃあ、温泉でも行こうか』『温泉!いいですね!』『他の人にも連絡取ってみるよ』『了解です!』と段取り良く話が進み、休日はほっこりと身体を休める日になった。

 

 

「例えばさ、戦国無双ってゲーム知ってる?視点は自分で、歴史上の人物になりきって、鉈とか剣とかで民を切り刻んでいくアクションゲームなんだけど。それと文章を書くことを照らし合わせるとすっごい面白いなー!って思ったんだよね」

 

 

行き先は、熱海という遠出プランを当初は立てていた。がしかし、皆社会人で疲労が蓄積していたので誰も計画を立てようとしない。行くのにどのくらい時間が掛かって、どの電車に乗って、どのホテルに泊まるのかみたいな計画を立てるのはわりと時間が掛かって疲れる作業だ。このままでは企画倒れしてしまうと危惧した一同は予定変更、大江戸温泉に行くことにした。

 

 

「文章を書くことは戦国無双みたいなゲームと一緒でさ、言葉が鉈とか鈍器みたいな武器でさ、武器と武器を融合したら新しい武器になるみたいなのが熟語になるっていう発想ね」

 

 

適当に電車を乗継、ゆりかもめに乗ってゆらゆらとお台場に行くとそこはもう大江戸温泉があった。雰囲気はもちろん江戸ちっく、四種類の浴衣から自分好みの浴衣をチョイスする仕組みだった。自分は2番の浴衣と黒紐を選んで、お風呂場に向かった。お風呂場に向かう途中では、お祭りのような出店が出店されていて、女の子も浴衣姿でデートスポットには最適な場所であった。パフェが売っていたり、お面が売っていたりと、夏のお祭りを一足先に味うことができる雰囲気の良いところだ。

 

 

「それで、いろんなワードや熟語を使いこなして相手の城壁を崩していくの。まるで戦略家みたいだよね」

 

 

お風呂場はなかなか広かった。露天風呂もあって、入るやいなや皆で寒い外湯に向かった。露天風呂はとても奇怪な場所である。人間皆が裸でお湯に浸かり、タオルを四分割にして頭に乗せて、湯を満喫している。見ようによっては(よってなくても)やっぱり人間は猿と同種の生き物なんだなあって感じさせられる。

 

 

「そういう戦略が文章論で言うと、起承転結に〜とか言うんだろうけどね」

 

 

お風呂はとてもリラックスできる。お湯に浸かっていると、その温度によってネガティブな思考がポジティブなものに変換される。お風呂の中での考え事はプラスに働き、あらゆる考え事が浄化されて決着する。

 

 

「小説家とか物書き屋って紙面上で戦略の練るプロフェッショナルみたいでかっこいいよね」

 

 

露天風呂を満喫し終わってからは、サウナに入った。サウナの中は競争社会だ。一旦入ると、誰かが出ようと言うまでは自分からは言い出せない雰因気になる。それは男が生物的に我慢強さをアピールする生き物としてDNAにインプットされているからなのだろう、と思っている。とてもくだらないことだ。

 

 

諸葛孔明みたいだよね」

 

 

こんなにも長湯をしたのは、おそらく初めてであろう。浸かり始めたのが20時で、皆との話が終わって出ようってなったのが23時だった。

 

 

「こう思うと、文章書くのってすごい楽しいと思わない?」

 

 

お風呂に3時間も浸かっていたのだから(途中でサウナも入っていたが)身体中が火照って、肌という肌がふやけていた。身体中の菌を再度洗いなおして、風呂場から上がり、ドライヤーで髪の毛を乾かして浴衣に着替えた。それからお風呂あがりの恒例儀式であるコーヒー牛乳を飲む。フヤケた肌を労りながら飲むコーヒー牛乳は日常の疲れを忘れさせてくれる至高の飲み物だった。