主人公がいい。

人間は会話で出来ている。

「こいつとだけはゾンビ倒し絶対に行きたくないわ!」

 

 

「こいつとだけはゾンビ倒し絶対に行きたくないわ!」

 

京急井の頭線の路地裏にある居酒屋での一コマである。

ビアガーデンに行くはずだったのだが、残業があったということと台風接近による強風と豪雨の影響でビアガーデンは惜しくも中止となってしまった。せっかく集まったのだから飲もうということで、とある大衆居酒屋に集結した。

 

「俺もこいつとは嫌だわ」

「なんでだよ!笑」

 

店員に生とカシオレとハイボールを頼んだのになかなか持ってこない。確かに今日は金曜日ということで忙しいことは重々理解しているが、かれこれ30分は待たされている。

 

「わかる!こいつ寝てる間に俺らの所持品ごっそり持っていきそうだもん。」

「火薬とか銃弾とか平気で持って行くでしょ。最悪、殺される。」

「多分、気がついたら3つくらいあったライフが1つとかになってるよ。」

 

注文の50分後くらい経ち漸く料理やドリンクが届いた。コース料理で入ったので、一人一本つくね串が用意されているはずだった。しかし待てども待てどもつくね串は来ない。

 

「とらねえわ!」

「いや!お前は取るね!」

「信用がないとか悲しいわ。」

 

目の前の彼の元には串用の皿らしきものが三つ空の状態で置いてある。彼の口元はタレがべっとり付いていた。

 

「んで、多分みーくんは仲間をかばって死んでそう」

「あー、身代わりくんだね。自己犠牲半端ないもんな」

「俺、死にたくないよー。」

 

―当店、ドリンクを残しすぎている場合その分の金額も頂く形となっております。

という張り紙がある。みーくんの席には1回の注文ではこなかった同じものを大量注文したドリンクが山積みの状態になっている。

 

「ひろむんはなんだかんだで生き残りそう。」

「うんわかる。正規のルート以外で生き残りそう。生存者1名って報告の後に、実は別の出口から脱出してました的な男だよお前。」

「なんだよそれ! なんで俺だけ一人別なんだよ笑」

「お前はバイオハザードの世界でも一匹狼なんだよ。」

「でもってなんだよでもって。」

 

ひろむんは皆とは少し距離をとってタバコをふかしている。目の前の灰皿には大量のシケモクで埋まってる。タバコが大好きらしい。

 

「うのちゃんはあれだよね。あれ。」

「あれってなに!笑」

「…何も思い付かないわ…」

「ヒドイじゃんそれ!絞り出してよ!」

 

残業により開始から1時間30分後に到着したうのちゃんの席には一杯のドリンクと彼に食べられてしまったつくね串の空の皿とサラダだけがあった。何か頼もうよ、と何度も頼んでるようだったが、誰も注文しようともしない上にタッチパネル端末も渡そうとしなかった。

 

「うのちゃんはあれじゃん?そもそも不参加で俺らがゾンビと戦ってる間、家で待機してそうだよ。」

「そういうとこあるもんな。」

「物語に参加してない人?笑。俺も参加したいんだけど、せめて脇役!笑」

「仕方ないよ。うのちゃんだもん。」

「うのちゃんのことは諦めよ。」

「いやいや、諦めないでよ!笑」

 

世間では華の金曜日、周囲の席の人たちはボタンを3つくらい開けてだらしなくワイシャツを着ている。学生の飲め飲めコールや女性の黄色い声が響き渡っている。そんな中、僕たちは、もしもゾンビの世界に僕たちがいたらというテーマで会話に華を咲かせるのであった。