主人公がいい。

人間は会話で出来ている。

次に意識を得たとき、ちびまる子ちゃんが一家団欒でご飯を食べているところだった。

 

 

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「スーツ姿のサラリーマンをみて思ったんだけど、自分の所得階級ってどのへんなのか気にならない?」

 

 

優雅な早朝に木漏れ日が漏れた駅の一画。走るサラリーマンが横をよぎる。前方からもシャキッと決まったスーツ姿で歩く男性。ここは早朝の街の中だ。昨日は大学時代の異性の友達と昼から逢って、遊んで、ご飯食べて、解散をした。せっかくの休日に、そんな流れで終わらせたくなかったから、スカイスパで一泊。その帰りである。

 

 

「今働いてるところの労働環境が良いのか悪いのか、給料が多いのか少ないのかってとことを一般水準で比較してみたいよね」

 

 

スカイスパとは、低価格で温泉と宿泊を楽しめるエンターテインメント施設で、バブル全盛期に建てられたものらしく、自分が行ったところは今もなお健在に施設運営をしているところであった。温泉といっても、温かいお湯とジャグジーによるもので、お肌スベスベ効果や若さ回復効果などはほぼほぼ皆無であろう。まあ、皆無といっても気持ち次第っちゃそうなので言い切れはしないのだろうけど、少なくともサウナでの疲労回復効果は絶大なるものだった。

 

 

「人と比べずに自分の向きたい方向に向けばいいんだよって、思考の甘えだと思うんだよね」

 

 

お湯あがりには、誰しもが経験しているであろう、珈琲牛乳を飲むのが楽しみの一つである。瓶の液体を飲みながら髪を乾かす。大型扇風機の前では、疲れきったサラリーマンが温泉で疲れを癒され、上裸のまま風を浴びている。この光景も、感慨深いものがあり、落ち着くシチュエーションである。

 

 

「隣の芝生は青いって言うじゃん。それっていかに自分の中では正義でも誰かにとっては悪でもあるってわけでしょ。やりがいを持って働いても、土日を優雅に楽しんでる人を見ると、あっそういうのもあるんだな、とか楽しそうだな、とかって思っちゃわないわけないもんね」

 

 

寝るときは、リクライニングソファーが一人ひとつ提供されており、その上に毛布を掛けて他人の使用後の温もりを感じながら寝る形式である。ソファーに横たわりながら、スマホをいじる。真っ暗の闇の中で、スマホの光が小さく輝く。修学旅行で眠れなくて、携帯をいじるタイプなのは昔も今も変わらずで、そのせいかこの間の視力検査ではほぼ失明状態だったことを合点した。

 

 

「人と比べることで見えてくるものもあるからね」

「比べちゃうのもまた生きづらいんだけどね」

「そうだね。気兼ねなく生きていける、精神に負担をかけない、そういう意味で自由に生きたいよね」

 

 

宿泊時間は朝の5時までで、この時間を過ぎれば延長料金を払う形式だった。夜中の2時までお風呂に入り、深夜の3時にスマホを置いた自分にとっては、この指定時刻はもはやあって無いようなものだった。そのため、起床が7時になり、この時点で2時間分の延長料金を払うこととなった。この施設は朝の9時までなので、朝風呂を1時間満喫した。着替えと出る支度を整え、やっとの退出は指定時刻から3時間30分を過ぎていた。早朝の9時、帰路につくため電車乗り場までトボトボと歩く。優雅な休日、朝風呂によって温まった身体、昨日食べた豪華ディナーの味。人生は、まだ捨てたもんじゃないと感じられる。

 

 

「じゃあ、どうすればいいの?」

「それがわかれば苦労はしてないよ」

 

 

家路につき、ベッドの上に横たわった。膝の上にパソコンを置いてネットサーフィンをする。手元にあったリモコンでテレビを付けて、片手にはスマートフォンでラインメッセージを読み進めた。ふいに眼がチカチカし、手の力もスマートフォンすら重く感じるほどになり、力を緩め、スマートフォンを耳元に置いた。そして、次に意識を得たとき、ちびまる子ちゃんが一家団欒でご飯を食べているところだった。