大丈夫だよ。お前にも中毒性あるから。
「中毒性のある人ってどういう人だと思いますか?」
二杯目のビールをぐいっと飲み干して言った。
「いきなり変なこと聞くね。笑」
「最近、中毒性のある人になろうと思ってて。笑」
「それはなろうと思ってなれるものなの?」
「なろうと思えばなれるものだと信じてます。」
「強い思いだね。笑」
久しぶりの大学時代のサークルの先輩とサシ飲み。
かれこれ2年位会っていなかったし、社会人でスーツということもあって外見が大人っぽくなっていた。
「なんで、そんなこと思ったの?」
「最近観た映画で、『渇き。』ってのがあるんですけど、これがなかなか自分の心境と被るとこがあって、いろいろ考えさせられましたよ。」
「渇き?知らないなあ。面白いの?」
「個人的には面白かったです。小説も買っちゃいましたから。笑」
「大好きじゃねえかよ。笑」
渇き。は、友達と自分の誕生日に六本木で観た映画。六本木の映画館は、深夜でも上映していたから、ご飯を食べてお酒を飲んでの流れで行ったので心境的にはナイーブかつデリケート。
「むしろ、先輩は自分に中毒性があると思いますか?」
「俺が思う君の中毒性?」
「いえ、違います。自分自身が思う、自分の中毒性です。」
「ああ、そういう意味か。」
「はい。」
「そんなの考えたこともないからなあ。わからないけど、俺には中毒性とかないんじゃないかな」
「ないんですか?」
「あったとしても、自分ではわからないよな。」
「そうですか…。そういうもんですかね。」
「じゃあ、君が思う君自身の中毒性はなんだと思ってるの?」
「それは、自分自身が中毒性だと思ってます!」
「なんだそりゃ。笑」
「・・って感じで自分もよくわかりません。」
「そういうもんだと思うよ。」
渇きの、主人公には確実に中毒性があった。
自分自信が崩壊してもなお一人の人間に対して異常な愛情を向ける。
駄目だと頭ではわかっていても、身体が勝手に反応してしまう。
いつの間にか無意識にうちの吸い込まれている。
「でも強いて言うなら、中毒性って、自分なりの軸がある人なんじゃないかなあ」
「軸ですか?」
「誰に何を言われようが自分の考えを突き進んでる人とか、自分なりの考えをしっかり持ってる人とか?」
「イノシシ系ですね」
「それはよくわからないけど」
「突っ走る系ですね」
「そういうことにしとこう」
確かに、映画の主人公は自分の考えをしっかり持ってたかもしれない。
確実に歪曲していたと思うけど。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
「行ってらっしゃい」
中毒性のあるモノで、今思い浮かぶのは、タバコとかアルコールとか性交渉とかこんなんしか思い付かない。他にも無理やり挙げるなら、フリスクとかチョコレートとかコーヒーとか旅行とか映画とか美味しい食べ物とか。けど、どれも我慢しようと思えば耐えられる。本当の中毒性とは何か。
「大丈夫だよ。お前にも中毒性あるから!」
「本当ですかー?」
いつの間にかお会計が終わっていた。