ダニまみれのベッドに臥し、寝息を立て始めた。
何も着ず、唯一局部に布切れ一枚だけを覆い、ベッドに仰向けで寝ている男。室内はエアコンが設備されている。壁に固定されているリモコンのスイッチを押して、温度を最小限に下げているが室内の温度は変わらない。エアコンから出てくる異様な空気。肺に入れたら喘息になりそうな色である。それでもクーラー全開にして、タンクトップすらも脱ぎ捨ててベッドに横たわる。信じられないほどの暑い場所、マレーシア。
「性を売り物にしてる光景を見るのが辛くなってきたな。」
「歩いてるだけで相手からお触りされる環境とか日本ではあり得ないよな。」
空港からバスで数時間乗り継いで、わりと栄えた街に到着し、そこからホテルまでの通りを歩き進んでいた。道すがら、セクシーでグラマラスな女性たちが観光客に群れてくるのは、金になることを知っているから。これが彼女たちにとっての生きる術である。
「こんなところに3日もいたら人間性が狂う。早く次の街に行きたいわ。」
まだエアコンからは異色の冷気が流れ出て、身体に悪影響を与えている。旅仲間はベッドに横たわったまま、紙に『air conditioner is not working』と書いて、これ受付に見せてきて、と言ってうつ伏せになる。
「今日は浜辺で軽く黄昏れて、昨日下のお世話になった彼女たちに挨拶してこの街から脱出しよう。」
この街には5日ほど滞在する予定だった。旅行の道筋は彼のもの。
「あいつらんとこ行ったらまた低質なお酒を上乗せ価格で飲まされるよ。」
「参加費みたいなもんだから。」
「無駄金はあんまり使いたくないんだけど。」
「最低限のルールには従わなきゃいけないよ。楽しむためには仕方ないこともある。」
弁護士の卵なだけに、言葉の節々から規律を匂わさせる。けど、お堅い職に就いていくとは思えないほどの狂気も兼ね備えているクレイジー・ボーイ。
「せっかくの機会だから、楽しまなきゃ損だ。」
「まずは腹ごしらえだな。」
そのまま、
ダニまみれのベッドに臥し、寝息を立て始めた。