主人公がいい。

人間は会話で出来ている。

痺れる舌を潤すためになみなみに注がれたお水を一気に飲み干した。

 

 

「この蒙古タンメンめっちゃ辛いよ!口の周りが痛い。」

 

定時に仕事を終え、いつも一緒にいる同期と帰路についた。帰り道、仲間たちの中で、唯一実家に住んでいる彼が、ご飯を食べて帰ろう、と誘ってきた。どうやら今日は親がご飯を作らない日らしい。彼の誘い文句に応じて、自分たちは渋谷駅からすぐ近くの蒙古タンメンに向かった。

 

「辛いの得意なんじゃなかったの?」

「得意でもねえわ。」

「でも君、辛くしないでいいものを辛くして食べるじゃん。」

 

以前、サイゼリアでランチをしていたとき、彼はアラビアータに大量のタバスコを振り掛けてお皿いっぱいに真っ赤なエキスを散乱させていた。だからてっきり辛いものが好きなんだと思っていたが、どうやら違うらしい。

 

「辛くしないでいいものって例えばどんなものですかあ?」

 

こちらの発言が癇に障ったらしく、厳しめの口調で応対される。

 

「ほら、こないだサイゼリアで食べたやつとか」

「アラビアータのこと?あれは元々辛いものですけどお?」

「例えば、ピッツアとかは辛くしなくてもいいものでしょ。」

「じゃあタバスコの存在意義はなんですかあ?なんでタバスコはあるんですかあ?」

 

彼の前で拙劣な応答をするのは危険である。なぜなら、彼は合理的かつ論理的ではないことをとても嫌い、ただ一人の理系大学出身ということもあり、思考経路に強度の正確性を求めてくる。

 

「それは人それぞれ味の好みがあるんだから、それに合わせるための調味料でしょ。」

「じゃあ、辛くしないでいいものってないってことですよねえ?」

 

目の前の真っ赤な色した蒙古タンメンの汁に映った自分の顔が赤鬼のような形相をしている気がして、誤魔化すようにラーメンを食い漁る。

 

「もうちょっと考えて喋った方がいいんじゃないのお?」

 

痺れる舌を潤すためになみなみに注がれたお水を一気に飲み干した。